したったらずチャン
この夏から、週に一度ぐらい、通勤途中にドーナツショップに立ち寄っています。
お店に、八重歯とえくぼの可愛いらしい女性店員がいました。この「えくぼチャン」はすごくテキパキと仕事をこなす人で、ドーナツとアイスティを注文すると、手際よく短い時間で用意してくれて、通勤途中に立ち寄る身としてはとてもありがたかったのです。
そんなある日、新しい店員さんが加わりました。ぽっちゃりとして舌っ足らずの彼女は、初めての仕事にとても緊張しているらしく、「ポイントカードをお預かりいたします」と言うときも「ぽいんときゃど、おやっきゃりたしまぅ」みたいになってしまうのです(初めて聞いたときには海外からの留学生なのかと…)。ゆっくり言えば、きっときちんと言えるのでしょうけど、どうしても早口になってしまうようです。
おまけに、この「したったらずチャン」は、レジを打ち間違えたり、レモンティなのにミルクティだったり、ストロー忘れたり、と…はっきり言ってドンクサイ。正直なところ、お店に入って注文の列に並ぶときに、「したったらずチャン」じゃなくって、「えくぼチャン」に対応して欲しいなあと祈ったものでした。
やがて夏が終わる頃、店頭から「えくぼチャン」の姿が消えました。ひょっとすると彼女は学生アルバイトで、夏休みが終わってたくさんは出勤できなくなったのかもしれません。一方、「したったらずチャン」はどういう訳かいつも出勤しています。しかたなく、「したったらずチャン」に注文を告げる日々が続きました。
そして秋がやってきて、紅茶の注文をアイスからホットに変えたときも「したったらずチャン」が注文を受けてくれました。
ところが――。
またもや、「したったらずチャン」の手際が悪いのです。確かに、ホットレモンティは、ポットを用意したり、お湯を入れたり、今までと手順が違って、すこし面倒なようではあります。夏の間にはあまりオーダーがないメニューで、慣れていなかったのかもしれません。それにしても、もうちょっと手際よくやれないものだろうか…。そして思わず、こう心の中でつぶやいてしまいました。
「なんで、アイスレモンティのように手際よく出来ないんだろう。これじゃあ、夏に初めて店に来たときに、逆戻りじゃないか」。
でもまあ、仕方ないか。何も高級レストランに通ってる訳じゃないしなあ。300円ほどでドーナツセット食べさせてもらってるんだもんなあ。なんて、自分で自分をなだめながらモグモグとドーナツ食べていて、はたと気がついたのです。自分が、「したったらずチャン」のことを『【手際よく】アイスティを用意できる人』だと思っていることに。
確かに、最初はモタモタしてたけれど、アイスティの注文が少なくなる秋には、彼女は短い時間でお盆の上にきちんとアイスティを用意するまでに習熟していました。僕もひとりのお客としてそれに気がついていて、無意識に彼女の評価を上げていたんですね。舌足らずのほうは、相変わらずなんですけど(笑)。
クリスマスには、テキパキとホットティを淹れてくれるようになってるかもなあ。
これからもがんばってね、「したったらずチャン」。
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